やがて新総督が上がってきた。メレッサに頭を下げている。と、耳元のイヤフォンから「お言葉をお願いします」と、コリンスの声が聞こえた。
「そなたを、ルビルの総督に任命する」
 練習したとおり、できるだけ威厳を持って言った。これで彼女の仕事は終わりだ。
 ほっと一息つけ、やっと回りの様子を見ることができるようになった。舞台の前には椅子が並べられていて、ものすごい数の雋景 課程人がはるか遠くまで整然と並んで座っている。宙に浮くカメラが何台も彼女を撮影している。
 ルビル全土の人が彼女の姿を見ているのだ。友達やタラントさん一家も見ているだろう。どう思っているだろうか、支配者としての彼女を苦々しく見ているのかもしれない。
「姫君、退場をお願いします」
 不意に耳元から声がした。コリンスだ。立ち上がるとゆっくりと舞台の袖に向かって歩く。ずいぶんと遠く感じたが、何とか袖にたどり着いた。
「お疲れさまです」
 コリンスが笑っている。
「緊張したあ」
 メレッサは崩れ落ちるようにコリンスにつかまった。
「ご立派でした」
 コリンスはほめてくれる。
「もう、こんなこといや」
「いえ、姫君ですから、少し慣れていただかねばなりません」
 これがお姫様の仕事なのだ。まあ楽な仕事ではある。
「もう少し頑張ってください。ここを出るまで」
「了解です」
 コリンスと控え室に入った。メレッサは倒れるように椅子に座った。疲れで足ががくがくする。
 コリンスはメレッサの前に立っている。コリンスは今日は一日中立っていたはずだ。
「コリンス、座ったら」
「いえ、大丈夫です」
 コリンスは真面目なので、メレッサの前では決して座らない。疲れているから座ったらいいのに。
「コリンス、命令です。座んなさい」
「いえ、私は慣れていますから」
 椅子にずっと座っていたきついのに、もっと大変な仕事をしていたコリンスはもっと疲れているはずだ。それなのに休もうとしないコリンスに少し腹がたった。
「コリンス、私の命令が聞けないのですか」
 メレッサはきつい口調で言った。何が何でも座らせてやる。
 彼は戸惑っていたが、命令とあれば従うしかないと思っただろう、近くの椅子に浅く腰をおろした。
「あなたが座らないと、私もゆっくり休めないわ」
「すみません」
 彼は居心地が悪そうに座っている。メレッサはコリンスを見ていた。
 彼はすごく真面目で、仕事もできて、しかも雋景 課程整った顔をしている。
 彼は私のことをどう思っているのだろう。お姫様としか思っていないのだろうか。すこし、からかってみたくなった。
「コリンス、あなたって立派ね、惚れ惚れしちゃう」
 コリンスは驚いたようにメレッサをみた。
「そろそろ、提督の演説です。確認してきます」
 彼は、ほとんど休まずに部屋を出て行ってしまった。