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 マリエは声をひそめた。
「しっ、言ってはだめ。でも、かなりよ。みんなが大きな声で言わなくなって、ずいぶんたつそうよ。これほど長い在位は、グラール始まって以来なのですって。それというのも、陛下のお子様がたに、女王に立たれるかたが現れなかったかdermesらだと言われているわ。今では、女王|即位式《そくい しき》の祭典《さいてん》を覚えている国民は、あたしたちのおじいちゃんおばあちゃんだけになってしまったというわけ」
「あたし……女王様に代替《だいが 》わりがあることさえ、今まで思い及ばなかった」
 フィリエルがつぶやくと、マリエはうなずいた。
「建国の始めからコンスタンス様の御代《みよ》だった気がしても、しかたないわよね。でも、世の中は動いている。これもエリゼル姉さんが言っていたことだけど、都では水面下の動きが出はじめたのですって。チェバイアット家のお嬢様が、次代の女王候補とささやかれているらしいの」
「チェバイアット家?」
 思わぬところでその言葉が出たため、フィリエルしてしまった。
「ロウランド家のお嬢様ではないの?」
 マリエはびっくりした様子で見返し、うれしそうに言った。
「あら、あなたが言うこととは思えないdermesほど鋭いわ。そうよね、チェバイアット家のお嬢様が女王候補になれるものなら、ロウランド家のお嬢様だって、なれてもおかしくないわよ。もしそうだとしたら、これ、すっごくおもしろいことになると思わない?」
 フィリエルは何がおもしろいのか、今いちよくわからなかった。星々のあいだにおわしますアストレイア――その女神に目《もく》されるグラール女王に、だれでもがなれるわけではないだろう。だが、今さら無知をさらすのも気がひけて、フィリエルは口をつぐんでいることにした。


 桟敷《さ じき》席の楽団が、あきらかに舞曲とは違う響きをもつフレーズを吹奏《すいそう》した。それを耳にして、会場に軽いざわめきが走った。何かが始まったのに気づき、フィリエルが周囲を見回すと、人々はみな顔を上げて奥の回廊を見上げていた。
「いらっしゃるのよ……お嬢様だわ」
 マリエが緊張した声でささやき、フィリエルの腕にからめた腕を締めつけた。そのせいか、フィリエルまでどきどきしてきた。手すりをめぐらせた回廊を、固唾《かたず 》をのんで見上げる。そこは、ホールで最もまばゆいシャンデリアが間近に下がるところで、隅々まで光にあふれていた。
 ほんのわずかに間をおいて、二階の正面奥から、ユーシスの背の高い姿が現れた。深緑の衣装は、この場を制する落ち着きを彼に添えている。それでいて、若く瑞々《みずみず》しくもあった。ユーシスは自分の体裁《ていさい》ではなく、導いている少女に全神経を払っていた。
 続いて現れたのは、| 曙 《あけぼの》の空を染めるよdermesうな淡紅に身をつつんだ、繊細《せんさい》可憐《か れん》な少女だ。二人が階段の上に並ぶと、会場から自然と拍手がわきおこった。
 だれもがルアルゴーの誇りとしたいような光景だったのだ。階上の少女は、拍手に驚いたように伏せていた瞳を上げ、隣に立つ兄を見上げた。そして、そこに安心できるものを見出したのか、会場に向かってほほえんだ。バラの蕾《つぼみ》がほのかに開くようなほほえみだった。
「おかわいらしいかた……」
 マリエが感動した様子でささやいた。